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東京地方裁判所 昭和23年(ワ)3775号・昭23年(ワ)4902号 判決

第三七七五号事件原告・第四九〇二号事件被告 安部フサエ

第三七七五号事件被告・第四九〇二号事件原告 岩崎きよ子

第三七七五号事件被告 照井勝元

一、主  文

昭和二三年(ワ)第三七七五号及び同年(ワ)第四九〇二号の二事件の各原告の請求を、ともに棄却する。

訴訟費用は各原告の負担とする。

二、事  実

第三七七五号事件(以下甲事件と称する。)において、原告(甲事件及び第四九〇二号事件を通じて、以下原告と称する。)訴訟代理人は、「被告らは、原告に対し肩書地所在の家屋番号同町三十四番、木造瓦葺平家建一棟、建坪十五坪七合五勺のうち一坪(二畳室)から退去して、これを明け渡し、各自原告に対し昭和二十三年八月二十一日からみぎ明渡済に至るまで一ケ月金二十九円の割合による金員を支払うこと、被告等は連帯して原告に対し金六千五百円、並びにこれに対する昭和二十三年十月二十八日からみぎ完済まで年五分の割合による金員を支払うこと。訴訟費用は、被告らの負担とする。」との判決及び仮執行の宣言を、被告(前掲の二事件を通じて、以下被告と称する。)ら訴訟代理人は、請求棄却の判決を各求め、

第四九〇二号事件(以下乙事件と称する。)において、被告岩崎訴訟代理人は、「原告は、被告岩崎に対し甲事件と同一建物のうち四畳半一室を明け渡すこと。訴訟費用は、原告の負担とする。」との判決及び仮執行の宣言を、原告訴訟代理人は、請求棄却の判決を各求めた。

原告訴訟代理人は、甲事件の請求原因及び乙事件の答弁として、つぎのとおり述べた。

一、係争の建物は、もと訴外高橋菊次郎の所有であつたが、訴外立沢房吉がこれを買い取り、さらに原告は、立沢から昭和二十三年八月十九日にこれを買い受けて、同年同月二十日にいわゆる中間省略の登記により、高橋から売買によつて所有権を取得した旨を登記して、現にこれを所有している。しかるに、被告らはこれよりさき所有者に対抗できる何等正当の権原を有しないで、みぎ建物を占拠し、現にそのうち二畳室(一坪)を使用している。

よつて原告は、その所有権に基いて、被告らに対しその占拠部分の明渡を求め、且つ被告らに対し各自、原告が前述の登記をした日の翌日である昭和二十三年八月二十一日から明渡済まで一ケ月金二十九円の割合による賃料相当額の損害金の支払を求める。

二、つぎに原告は、これよりさき昭和二十二年十月二十七日に、被告らを本件建物の賃借人であると誤信し、原告の内縁の夫である訴外竹川勝一の名で、該建物のうち四畳半一室を転借する契約を結び、被告等に対し同日権利金五千円を支払い、さらに、同年十一月から昭和二十三年八月まで十ケ月間にわたつて約定の一ケ月金百五十円の割合による賃料計金千五百円を支払つた。しかし、みぎ一室の昭和二十二年当時の適正賃料は、全家屋の相当賃料一ケ月金二十九円から考えて、一ケ月金四円五十銭を相当とし、これに法定の修正率(二倍)を適用するとしても、一ケ月金九円となるに過ぎないのであつて、みぎ権利金及び賃料の授受は、統制法令の規定に違背し、無効であるから、被告らは、連帯して原告にこれを返還すべき義務がある。よつて原告は、被告らに対し、連帯して前述計金六千五百円並びにこれに対する本件訴状送達の日の翌日である昭和二十三年十月二十八日からみぎ完済まで民事法定利率年五分の割合による損害金の支払を求める。

三、被告らの抗弁事実中、高橋菊次郎が昭和十六年十二月十日訴外岩崎重明に対して係争建物を被告らの主張するような条件で賃貸し、その後賃料を一ケ月金二十九円に改めて、同人名義で昭和二十三年三月分までの賃料の支払が為されたこと、みぎ重明が既に死亡したこと、並びに被告照井は、被告岩崎の内縁の夫で同一世帯員であることを認めるが、その余の事実を否認する。

四、原告は、なおつぎのとおり主張する。すなわち、かりに被告岩崎が高橋菊次郎に対し賃借権を有したとしても原告が本件建物の所有権を取得するに先だつて、同被告は、みぎ建物のうち八畳室を訴外浜田文治に、四畳半室を訴外小浜卓夫に、他の四畳半室を訴外竹川勝一に、それぞれ当時の建物所有者である高橋菊次郎の承諾を得ないで、多額の権利金と室代を強要収受して転貸し、自らは二畳室に起居していたので、昭和二十三年四月頃にこれを知つた高橋は当時被告らに本件建物の明渡を求めていたのである。よつて、高橋から本件建物を買い受けた原告は、同年十月一日に被告岩崎に対し民法第六百十二条の規定により賃貸借を解除する旨の意思表示を為し、その意思表示は、同年同月四日に同被告に到達したから、被告岩崎の主張する賃貸借は、みぎ同日限り終了したものであり、結局被告らは、原告に対し本件建物を明け渡す義務を免れることができないものである。

五、乙事件については、甲事件の請求原因事実をもつて、答弁に代える。要するに、原告が係争家屋のうち四畳半室を占拠するゆえんは、始め被告岩崎との間の転貸借に始まり、後に建物の所有権を取得して、正権原に基くものであるに反して、被告岩崎の主張する賃借権は既に消滅しているから、同被告の請求は、失当である。

被告ら訴訟代理人は、甲事件における被告らの答弁、並びに乙事件における被告岩崎の請求原因をつぎのとおり述べた。

一、原告の請求原因事実中、原告がその主張するような経過で係争建物の所有権を取得したこと、被告らがみぎ建物のうち二畳室一坪を現に占拠使用していること、被告岩崎が原告の主張する日に訴外竹川勝一に対しみぎ建物のうち四畳半室を転貸したこと、同被告が同日竹川から金五千円の交付を受けたこと、係争建物の賃料相当額は一ケ月金二十九円であること、並びに被告岩崎が昭和二十三年十月四日に原告の主張するような意思表示に接したことは、これを認める。原告と竹川勝一との間の身分関係の如何を知らない。その余の原告主張事実を否認する。

二、被告らは、つぎのとおり抗弁する。訴外岩崎重明は昭和十六年十二月十日に高橋菊次郎から本件建物を賃料一ケ月金二十円、敷金三十八円の約で期間の定めなく借り受けた。そうして、みぎ重明が昭和十七年五月十一日に死亡した後は、その弟四郎が賃借し、同人も昭和十九年九月十四日に死亡したので、その妻であつた被告岩崎は、あらためてこれを賃料一ケ月金二十九円の定めで借り受け、爾来賃借して引き続きこれを占拠しているものである。そうして約定賃料は、同被告が昭和二十三年三月分まで支払い、その後同年八月分までを供託している。また被告照井は被告岩崎の内縁の夫であり、これと同一世帯員として同居するものである。

原告が被告岩崎に交付したと主張する金五千円は、転貸借の権利金ではなく、貸金として借り受けたものであり、且つ、被告岩崎は既にこれを返済した。また転貸賃料は一ケ月金百円の定めであつた。

三、乙事件の請求原因は、つぎのとおりである。被告岩崎は、甲事件において抗弁とするように、本件建物の賃借人であるところ、原告は、昭和二十三年十月頃からみぎ建物のうち四畳半一室を何ら正当の権原によることなく占拠使用して、被告岩崎の賃借権の行使を妨げているから、みぎ室の明渡を求める。

<立証省略>

三、理  由

昭和十六年十二月十日に訴外高橋菊次郎が訴外亡岩崎重明に本件家屋を被告らの主張するような条件で賃貸したことは、当事者間に争がなく、このことと、証人原山富二の証言及び被告ら各本人訊問の結果、並びにその供述により真正に成立したものと認める乙第一号証の一及び三、成立に争のない同第一号証の二及び四をあわせ考えると、前示賃貸借は被告らの主張するとおり、高橋菊次郎の承諾を得て、岩崎重明の死亡後、その弟である同居者四郎に、みぎ四郎の死亡後、その妻である被告岩崎に引きつがれ、同被告は、昭和十九年九月から係争家屋の賃借人として、その子ら三人、並びに内縁の夫としての被告照井とともに、これを占有使用していることが明かである。そうして高橋菊次郎がみぎ家屋を立沢房吉に、立沢が昭和二十三年八月中に原告に順次売り渡し、よつて原告がその所有権を取得し、且つその旨の登記を経たことは、当事者間に争のないところであるから、前認定にかかる被告岩崎と高橋との間の賃貸借関係は、原告との間に承継される筋合であつて、原告がこの事実を無視して、被告らによる係争家屋の占拠を不法と主張することは許されない。

つぎに、原告の主張する契約解除の当否について判断する。証人立沢房吉、同小沢卓夫の各証言、並びに原告本人訊問の結果をあわせて考えれば、被告岩崎は、前段認定の賃借家屋の各一室を訴外浜田文治、小沢卓夫らに転貸したことを認めることができ、同被告がこのことについて当時の賃貸人である高橋菊次郎の承諾を得たことを認めるに足る資料がない。しかし、証人高橋さき、同立沢房吉の証言によれば、高橋はかつてその親族を居住させる目的で被告岩崎に対し家屋の明渡を求めたことはあつたが、被告岩崎の前示転貸の行為については、これを知つていたと推認されるにかかわらず、進んで異議を述べた形跡のないこと、並びに立沢は数世帯の家族が本件家屋内に居住することを知りながら、これを買い取つたことが認められ、また、原告及びその内縁の夫である竹川勝一は当初被告岩崎から四畳半一室を転借して、この家に転住したことはその自ら述べるところである。しかも、原告がその後に立沢から家屋を買い受けるまでの経過については、証人立沢房吉の証言及び原告本人訊問の結果によれば立沢は、一度は被告照井に本件家屋を売り渡すことを内諾したが、同被告は代金を調達することができず一方原告はみぎ立沢から転借人のゆえをもつて明渡の要求を受けるなどの立場に追い込まれた結果、いわば、その窮境を逃れるために、やむなく立沢に交渉してこれを買い受けるの一途に出でざるを得なかつたものと認定することができる。ところで、原告が本訴を提起するについては、成立に争のない乙第五、六号証の各一、二にも明かなとおり、被告らが原告の建物買受を快しとしないで、転借人であるはずの原告に対し明渡を求める旨の内容証明郵便を送達した等のことが原告を刺戟して、法廷に相争う一の誘因を作つたものと推察されないではないが、既に前示のとおり、原告自らも被告岩崎との間に転貸借関係にあり、且つ原告は本件家屋の既往における利用状況を熟知しながらこれを買い取つたことが明かであるから、前判示のような事情の下において、被告岩崎の転貸行為を責問し、その理由によつて契約の解除を主張することは、到底正当な権利の行使として、信義に従い、且つ、誠実に為されたものと認めることができない。従つて、原告の主張する契約の解除は、その効力がないから、契約の終了を前提とする家屋明渡の請求もまた、失当たるを免れない。

第三に、被告岩崎が竹川勝一に本件家屋のうち四畳半室を使用させるに際して、同人から金五千円の交付を受けたことは、被告らの争わないところであり、みぎは原告本人訊問の結果によれば、原告が内縁の夫竹川勝一の名で被告岩崎から本件家屋のうち四畳半室を借り受けるに際し、権利金名義においてこれを支払つたことを認めることができる。みぎ認定に反し、且つ既にみぎ金員を返済した旨の被告照井勝元の供述は、これを信用しない。また原告本人訊問の結果中、転借賃料として毎月金百円を支払つた旨の供述部分も、これを採用することはできないし、他にこの点に関する原告の主張を支持する証拠はない。そうして、家屋の賃貸借における権利金名義の金員の授受は、地代家賃統制令の禁止するところであるけれども、それは、民法第七百八条の規定にいわゆる不法の原因による給付に該当するものと解釈することが相当であるから、その返還を求めることは許されないものといわねばならない。

最後に、被告岩崎は、乙事件において、原告が不法に四畳半室を占有する旨主張するけれども、被告らが竹川勝一に同室を賃貸したことは、甲事件において自ら述べるところであり、原告がみぎ竹川と内縁の夫婦であることは、さきに認定したとおりであるから、結局原告は、被告岩崎の主張に従うとしても、その自認する賃貸借の効果として、前示の室を使用していることとなり、このことを無視しようとする同被告の主張の理由のないことは、自ら明かである。

以上に説明したところによつて、甲及び乙両事件における原告及び被告岩崎の各主張は、一も理由がないから、ともに失当としてこれを棄却すべく、民事訴訟法第八十九条の規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 中西彦二郎)

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